写真表現の可能性を追求し続けた写真家・中平卓馬さん。その作風は時代とともに大きく変化し、初期の「アレ、ブレ、ボケ」から、後期の冷徹な図鑑的表現まで、日本の写真史に大きな影響を与えました。
今回は、そんな中平卓馬氏が使用していた機材について紹介します。
中平卓馬さんの紹介
1938年、東京・原宿に生まれた中平卓馬氏は、日本を代表する写真家の一人です。
東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、『現代の眼』の編集者として活動を開始。
初期は森山大道とともに「アレ、ブレ、ボケ」という独特の作風で知られましたが、1973年の『なぜ、植物図鑑か』では一転して、撮り手の情緒を排除した客観的な写真表現へと向かいました。
その表現の変遷は、日本の写真史における重要な転換点として位置づけられています。
中平卓馬さんが使用していた機材
キヤノンF-1
プロフェッショナル向けの一眼レフカメラとして1971年に登場したキヤノンF-1。中平卓馬氏は晩年、このカメラを愛用していました。堅牢な作りと信頼性の高い機械式シャッターを備え、多彩な交換レンズやアクセサリーに対応する拡張性の高さが特徴です。
シャッタースピードは1/2000秒から1秒まで対応し、バルブ撮影も可能。ファインダーは視野率97%、倍率0.77倍のペンタプリズム式で、被写体の的確な構図決定をサポートします。露出計にはCdS素子を採用し、TTL開放追針合致中央部分測光方式を採用することで、正確な露出制御を実現しています。
重量820gという安定感のある車体は、プロフェッショナルの要求に応える耐久性を備えており、中平卓馬氏の精緻な撮影スタイルを支える信頼できるパートナーとなりました。特に晩年の作品群において、その安定した性能は不可欠な要素でした。
CANON New MACRO FD 100mm F4
中平卓馬氏が愛用していたマクロレンズです。シンプルな3群5枚構成のヘリアー型レンズながら、優れた描写力を誇ります。最短撮影距離45cmながら0.5倍までの高倍率撮影が可能で、晩年の図鑑的な表現を支えた重要な機材の一つです。
1979年9月に発売されたこのレンズは、6枚の絞り羽根を持ち、最小絞りF32まで絞り込むことが可能です。70.3×95mmというコンパクトなボディに、スーパースペクトラコーティングが施された光学系を搭載。これにより、ゴーストやフレアを効果的に抑制し、クリアな描写を実現しています。
フィルター径は52mmと扱いやすいサイズを採用。重量は455gと、マクロレンズとしては比較的軽量で、長時間の撮影でも疲労が少ないのが特徴です。中平卓馬氏は、このレンズの持つ客観的な描写力を活かし、被写体の本質を捉える冷徹な視線を作品に反映させました。
まとめ
中平卓馬氏が選んだ機材は、その表現の変遷と密接に結びついています。特に晩年愛用したキヤノンF-1とマクロレンズの組み合わせは、撮影者の主観を極力排除し、被写体をありのままに記録するという彼の写真哲学を体現するものでした。
これらの機材は、単なる道具以上の意味を持ち、中平卓馬氏の写真表現の重要な要素となっていたのです。